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70年代カリフォルニアかぶれ野郎のアイドル、ジャクソン・ブラウンのライブ紀行

【長文注意】この文章は、2008年11月22日の来日公演直後に書いたものを再公開したものです。文章は当時のままです。

僕のアイドルであるジャクソン・ブラウン(JB)の来日公演に行った。場所は昭和女子大の人見記念講堂。なんせ、JBは70年代カリフォリニアあこがれ野郎たちのアイドル的存在だけに、“その手のオヤジ”たちがたくさん集まるだろうって勝手に想像して、僕は、身構えるようにして三軒茶屋の駅に降り立ったのだ。

“その手のオヤジ”ってのは、つまり、リバイスの646のデニムやコーディロイを最低10本は色違いで持っていて、スニーカーはアディダス「カントリー」、ジージャンはLeeの「ストームライダー」で決めていたような野郎達なわけで、雑誌ポパイが勝手に創り出した西海岸の若者像をそのまま地でいったナウで行動派のヤングってわけね。

んで、そんな当時のヤング達の成れの果てが集結することは、想像にたやすいわけだから、こちらとしても身構えてしまうわけよ。ただ、だからと言って、メタボ入って頭部が薄くなったこの身を今更オレンジラベル(646デニムのヒップポケットのラベルはオレンジ色)に押し込めて行くわけにもいかないので、至極普通のカッコでいったわけです。

ただ、僕としては、一部勘違いしたオヤジ(当時のカッコで来るやつ)が出没するのではないかという、淡い期待を抱きつつ怖いもの見たさで、はやる心を抑えながら、人見記念講堂に向かう足取りもリニアなグラフを描きながら速くなってしまうのですね。

でも、その妙な期待は、会場に並ぶ列を見た瞬間に吹っ飛ぶ。おお! ここは平和島競艇か、ウインズ渋谷(場外馬券売り場) か。そこに並ぶオヤジ達が発する空気感からは、かつてのナウなヤングのそれは皆無。

しかし、だ。その列に並んだ瞬間、僕は考えを改めなければならなかった。その表層が発するイメージとは裏腹に居並ぶオヤジ達が静かな火花を散らしていることを、複雑に交錯する“気”が教えてくれた。皆どうしたというのだ、なぜに牽制しあうのか…。「オレは今こんな普通のオヤジだけど、でも当時はブイブイ言わしてたもんね。もしかしたらオマエもか」みたいなやつね。

さて、会場入りした僕が最初にしたことは、アーティスト公認グッズ購入ではなく、トイレの位置確認だね。歳を取るとトイレが近くなるわけで、公演中不測の事態で突発的な尿意が襲ってきたときのことを考えてその場所だけは把握しておかなければならない。もちろん、事前の用足しはしっかり決めた上での話だ。同行した妻などは、朝からコーヒーを控える始末。ライブ成功満願成就を願ったお茶断ちじゃねえっつうの。

さて、席に着いた僕は驚いた。前から8列目だったのだが、地蔵の様に居並ぶ後頭部の地肌の見え具合率の高さといったら、巣鴨地蔵通り商店街で石を投げれば老人に当たる確率に匹敵するぞ。まあ、それは言うまい。僕も、僕の後ろに座った人からみたら、そのカウントに入れられる資格が十二分にあるからだ。

ライブが始まった。おおJBはかっこいい。とはいえオペラグラスでアップ映像で見ると、そのヒゲを蓄えてた顔は哲学者のようでもあり、老人のそれだ。まあそうだろう、JBも60歳だ。彼も歳を重ねた。そして、僕たちも歳を重ねた。なんかこういうの良いよね。だって、リアルタイムで聴き続けるアーティストと同じ時間を共有して、互いの老いを重ねあわせる。なんてステキなのだ。

それにしても、彼の歌声はやけに落ち着いて聴こえる。それは70年代当時の曲においてもだ。その理由は後で説明するとして、途中15分の休憩。同じ老いを共有しちゃった僕たちは、歌う方も聴く方も休憩が必要なのだ。

んで、休憩に入るやいなやトイレにダッシュ! だって、後半戦を心の迷いなく気持ちよく聴くためには、やはり膀胱をカラにしてすっきり身軽にしておきたいじゃん。この会場の平均年齢の高さを敏感に感じ取った僕は、休憩時間のトレイは長蛇の列になるに違いないと予測したわけで、おおお!皆同じことを考えておるな。我先にと皆手洗いに一直線。

僕は15番目にトイレに駆け込んだ。しかしだ。小便用の便器の数は、12脚。遅かった。でも、そこで僕は奇蹟の光景を見たのだ。一瞬にして埋まった12脚の小便器を奪い合いように各人の後ろに並ぶような礼儀知らずは誰一人として居なかった。そうなのだ。誰言うともなく自然発生的に銀行のATMのような一列の礼儀正しい順番待ちができ、空いた小便器に順番にサッと入るという、情景が繰り広げられたのだ。

その場の状況を一瞬にして判断し、一面識もない者同士が暗黙の情報を共有することで、ATM型の列を作るという離れ業を実現したのは、平均年齢の高さから来る澱のように染みついた社会経験の深さがそれをさせるのだろうか。

だが、順番を待つそのとき、僕は横を見て愕然とした、洗面の大鏡に映った僕を含む中年男性達の列は、検尿ビンを持って並ぶ生活習慣病検査の群れか。肩を丸めて順番を待つ男どもの姿は、哀愁ただよいまくりでサンタナおじさんのハンバッキンのロングトーンがトイレの壁に長い残響を残すのを聴いたのは僕の空耳か。

無事にトイレを済ませ外に出ると、ATM型の列は延々と続き、階段を上り、その最後尾は10万光年の彼方にあった。むふふふ。インターバルに入るやいなやダッシュした僕を褒めてやりたい。

後半戦に突入した。JBがアコギ一本で歌い出したときは、後半はソロアコースティックライブの再現かと思ったものだが、途中からバンドが入る粋なアレンジだった。後半2曲
目が終わった後で、「日本のモロトシ タニグチ(お茶の水の谷口楽器のこと?)が僕のために用意してくれたギターなんだ」とタイアップ型の宣伝をさりげなく入れるあたりは、なかなかのビジネスマンやのー。

えーと、ちょっとマジメな話を。Lives In The BalanceでギターのMARK GOLDENBERGが弾いていたギターがすごかった。ゴダンの11弦ナイロンのフレットレスギターだった。弾くのがメチャ難しいだろうに、GOLDENBERGはいとも簡単に弾きまくっていた。この人は前からその職人的なプレイがすごく気に入っていたが、やっぱすごいと確信。ルックスは、どう見ても検尿ビン生活習慣病検査オジサン系なんだけど。

さて、最後の曲は、Running On Emptyでキマリ。ここでオーディエンス全員総立ちね。実はそれまでの曲が落ち着き系が多かったので、どうも立つに立てない雰囲気だったわけ。でもって、最後のノリノリのRunning On Emptyでオジサンオバサンは一気にほとばしったわけだわ。 GOLDENBERGのギターもカッコよいが、この曲はやっぱデビット・リンドレーのスライドが深く深く脳細胞に刻み込まれているだけに、デビット・リンドレーが聴きたい症候群にさいなまれる。

でもって1回目のアンコール。The Load-out 〜 Stayのおなじみのメドレー。Stayの途中で、バンド演奏が鳴りやんで、オーディエンスが「ステイッ! カモカモカモカモン」と大合唱をやる部分があるのだが、今回は客席側でその趣旨が十分理解されていなかったために、客席がどーしていいのかわからず、ちょっと白けた部分もあったのはご愛敬。

だって、JBったら今回のアレンジは突然オーディエンスにそれを要求するようになっているので、我々が心の準備が出来ていないぜ。これまでのライブのStayでは、大合唱パートに入る前に予行演習的に、JBのリードでもって「ステイッ! カモカモカモカモン」と8小節程度事前告知してからの導入だったではないか。バース(主メロ)から突然、バンドがなくなって、大合唱を要求されても面食らうわなあ。

ただ、歳のせいか、体調が悪かったのか、後半くらいから、JBの歌が精彩を欠いてきたのを僕は見逃さない。高音部ではフラット気味になり、かすれ気味の箇所もあった。ピアノ弾き語りで始まるThe Load-outでは、フラットやかすれが目立ってしまい、ちょっと痛々しさすら感じてしまった。

で、2回目のアンコールは、「先日の大統領選の結果は僕をとってもハッピーにしてくれたので、それに相応しい歌を歌うよ。新しい大統領がこんな人かどうかわからないけど…。 I Am A Patriotを歌うね」(大意)とのコメントの後に「僕は愛国者!」と歌い上げる。「共和党員でもなければ民主党員でもない。僕が知っている政党は“自由”だけ」(Copyright: 1984 Blue Midnight Music,ASCAP)というわけで、No Nukes以後、政治的な言動や歌詞が多くなった彼らしいエンディングでした。

で、ライブはこれで終了。おいおい待ってくれ。何か忘れてないか? 「ソング・オブ・お約束」はどうした。Take It Easyをなぜやらない。聞くところによると大阪では、Take It Easyをやったそうではないか。JBとしては、「オーディエンスからのリクエストもないし、ノリもイマイチだし喉の調子も悪いし、きょうはまっいいかあ」てな感じでやめちゃったのだろか。

さて、以下は22日のセットリスト。曲名/アルバム名の後に書いてあるのは、何のキーで歌われたかというもの。(E→E♭)とあるのは、Eがオリジナルキー。ご覧のとおり、古い曲はほとんど半音下げてある。60歳になり高音が出なくなった彼の苦労がわかる。とにかくほぼすべての曲でギターを交換していたJBだが、カポタストをしていないので、各曲に合わせてローコードが使えるよにチューニングしてあるのだろう。そういえば、ソロアコースティックのツアーでもほとんどの曲のキーを下げていたため、20本近いギターを後ろに用意していたなあ。

で、先ほどチラッと話した「70年代の曲も落ち着いて聴けた」理由というのは、帯域が半音下がっているので、声の感じに燻し銀系の味が出てて、オトナの歌になっていたからだと思う。さすがに、ニューアルバムの曲は今の彼に合っているだけに、オリジナルキーで歌われている。

うーむ、それにしても、Take It Easyを聴きたかったなあ。古い曲が少なかったことに対する不満もくすぶっているようだし。24日の東京厚生年金会館のライブでは、Take It EasyはもちろんLate For The Skyの演奏があったようだ。おまけに、情報によるとYOUR BRIGHT BABY BLUESまで演奏されたそうだ。往年の名曲ばっかじゃん。うーん、なんだか22日のライブだけハズレなような気になってきた…。いくらお気に入りの曲とはいえ、エンディングを人の曲(リトル・スティーブン)で締めくくるなよ…。

●2008年11月22日人見記念講堂セットリスト

01 Boulevard/Hold Out(オリジナルキー)
02 The Barricades Of Heaven/Looking East(E→E♭)
03 Everywhere I Go/I’m Alive(オリジナルキー)
04 Fountain Of Sorrow/Late For The Sky(F→E)
05 Time The Conqueror/Time The Conqueror(オリジナルキー)
06 Off Of Wonderland/Time The Conqueror(オリジナルキー)
07 Live Nude Cabaret/Time The Conqueror(オリジナルキー)
08 Culver Moon/Looking East(オリジナルキー)
09 Giving That Heaven Away/Time The Conqueror(オリジナルキー)
10 Doctor My Eyes/Jackson Browne(F→E)
11 About My Imagination/The Naked Ride Home(F→E)

10分のインターバル

12 Something Fine/Jackson Browne(F♯→F)
13 These Days/For Everyman(F→C♯)
14 For Taking The Troubles/The Naked Ride Home(オリジナルキー)
15 Lives In The Balance/Lives In The Balance(G→F♯)
16 Going Down To Cuba/Time The Conqueror(オリジナルキー)
17 Just Say Yeah/Time The Conqueror(オリジナルキー)
18 The Drums Of War/Time The Conqueror(オリジナルキー)
19 Far From The Arms Of Hunger/Time The Conqueror(オリジナルキー)
20 Rock Me On The Water/Jackson Browne(G→F♯)
21 The Pretender/The Pretender(G→F♯)
22 Running On Empty/Running On Empty(A→A♭)

アンコール1回目
23 The Load-out 〜 Stay/Running On Empty(G→F♯)

アンコール2回目
24 I Am A Patriot/World In Motion(オリジナルキー)


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