プレイリストブログがお送りする変拍子大好きシリーズの第2弾です。

今回は、キング・クリムゾンの「Starless」の変拍子を徹底分析してみましょう。ただし、例によって、キング・クリムゾンは、サブスクリプションサービスに音源を公開していませんので、カバーバージョンでお聴きください。

今回、取り上げたのはAfter Cryingの「Starless」(ライブ版)です。特別参加で歌っているのがジョン・ウエットンなので、ブラインド状態で聴くと本家かと勘違いします。そう思わせるだけの力量を持ったバンドでもあります。全体を通してオリジナルの世界観をリスペクトしているのが感じられ、数あるStarlessカバーの中でも秀逸な1曲です。U.K.のカバーより好きです。

Verseパートのオブリガートや後半でソロをとっているのが、ソプラノサックスなので、ある意味本家よりオリジナルに忠実です。本家キング・クリムゾンは、ライブではヴァイオリンでソロとってますからね。演奏にひとつ不満があるとすれば、メロトロン(エミュレーターも含めて)を使っていない点です。デジタルシンセなので、音程が安定しすぎていて、逆に気持ち悪い…。

●After Cryingというバンド

After Cryingというバンドは、今回、聴き放題サービス内を検索して見つけたので、詳しくは知りません。初めて聴きます。86年にデビューしたハンガリーのプログレッシブ・ロックバンドです。キャリアが長いのでたくさんのアルバムを出していますが、この「Starless」のカバーが入った「Struggle For Life」というライブアルバムは、CDにして2枚組の大作です。

このアルバムのやたら仰々しいオープニングのシンセなどは、誰が聴いてもEL&Pフォロワーな感じです。そして、ギターのフレーズからは、ロバート・フリップ先生の匂いが所々で立ち込めます。キンクリ好きのギタリストとEL&P好きの鍵盤弾きが結成したバンドという趣ですね。それと、メンバーに管弦楽要員2名を擁している点も注目です。壮大感をさらに盛り上げるのに一役かっています。また、詩の朗読などもあり、プログレ臭が雪崩かかって来て、ある意味息苦しさ(いい意味で)すら感じてしまいます。

ただ、現代音楽風の意味不明のアレンジやロマン派のクラシック風な曲もあり、音楽性がとっちらかった感じがあります。おそらく、長いキャリアの中で順次音楽性が変遷しているのでしょう。時間があれば他のアルバムも聴いてみたいものです。

●3パターン登場するベースの変態的な8分の13拍子フレーズ

さて、本題に入りましょう。キンクリ最高傑作(山崎調べ)である「Red」収録のStarlessです。この曲を変拍子視点で論ずる場合、ポイントは「8(4)分の13拍子」にあります。この変態的な拍子で3パターンのフレーズが登場します。それ以外の部分は4拍子です。まず、1つ目のパターンは、Verseパートが終了して曲調がガラリと変わる部分です。本文末の音源の4分03秒付近に注目してください。

不気味な雰囲気を醸し出す場合の定番とも言えるディミニッシュ系のフレーズで、病的なビートを刻みます。最初は自分の中でどのように処理すればベースでかっこ良く弾けるのか悩みましたが、3+3+2+5の区切りを意識して演奏(聴く)と気持よくなります。で、一旦理解できると、これがクセになるのですよね。色即是空な無我の境地になって、気がついたら延々とこのフレーズを弾いていたりします。

ただ、聴いている方からすると、なんとも言えない不安定感に包まれます。なんというかワサワサとして、いたたまれない感情に支配されるのですね。これこそがロバート・フリップの狙いなのでしょう。ちなみに、この変態的な変拍子のアレンジについて、ジョン・ウェットンは、後に批判的な発言をしています。

「THE ROCK INTERVIEWS OF AARON JOY」というサイトの主宰者がスカイプを使ってジョンにインタビューを行っています。「最初の3分間の部分は俺が作ったのだが、その後のパートは、他のメンバーが地獄を解き放った(Then it goes into all hell breaking loose & that’s the other guys contributions. )」的な発言をしています。「プログレ界の演歌歌手」(©谷脇さん)と言われる叙情派のジョンだけに、この変態パートは、気にらない口ぶりです。実際、その後、ソロになってStarlessをセルフ・カヴァーする場合もVerseパートしか演奏していない作品も多く残っています。

8(4)分の13拍子の変態パートを分析するために、MIDIで打ち込んでみました。以下の動画をご覧ください。ただ、間違っていたらごめんなさい。リズム音痴で譜面を読むことができない私(山崎)だけに、いい加減な採譜をしているかもしれません、いやしてるでしょう。ご指摘は@yamasaki9999まで。

このパートの最大のポイントは、9小節目で突如4拍子に戻る(?)ことでしょう。4分の13拍子とディミニッシュの不安定感でいたたまれない感覚が最大に膨れ上がったとことで、安定感のある4拍子になりホッと安寧の空気に包まれます。緊張と安堵、ムチとアメ戦略のアレンジとでもいうのでしょうか。

リズム隊が13拍子と4拍子による緊張と安寧を繰り返す中、ベンド以外余計なことを一切行わず、淡々と段階的に音程を上げていくギターの単調さが、単調であるがゆえに言い知れぬ高揚感を演出します。そこにパーカッションにおける手数も右肩上がりに上昇することで、高ぶり感をグイグイとドライブします。

そして、7分56秒付近の怒涛のBridgeパートに雪崩こみます。ここは、次に展開する約140bpmで疾走する高速変態拍子への場面シフトを演出する上での絶対条件的な存在として君臨します。ジョンの言った「地獄を解き放つ」狂気のトビラが開け放たれる光景が目の前に広がります。

●約140bpmで疾走する高速変態拍子が困難すぎてさっぱりわかりません

8分15秒付近からは、高速変態8分の13拍子が炸裂します。いったい、何を考えているのでしょうか? フリップ卿もブラッフォード(フルーフォード?)も普段、何を食べていればこんな刻みを思いつくのでしょうか? ベースでこのフレーズを弾く際、テンポが早すぎて8分音符で刻むことができません。そこで、やむなく倍(4分音符)で刻むのですが、そうすると、4分の6.5拍子となり2小節めから裏拍に突入してしまいます。

そこで、ここでは4分の4拍子と8分の5拍子を交互に刻むことになります。ただ、4分の4はまだしも、8分の5を約140bpmで刻むのは超人のなせる技なので、この部分は「現場対応」で一気にやっつける(?)感じで処理しちゃいます。もう何がなんだかわからないので、弾くときも聴くときも私はそうしてます。ご本人達もそうしているのでしょう。数あるキンクリのライブ音源を聴いていると、阿吽のノリで合わせている感じが伝わってきます。

この部分もMIDIで打ち込んでみました。ベースで弾くのとは違い、クオンタイズかけてジャストなタイミングできっちり打ち込むと、なんか違う感じがします。たぶん間違っていると思いますので、ここは雰囲気を感じ取っていただくということで…。ご意見ご要望は、@yamasaki9999まで。

19〜26小節までは、ジョン・ウエットンらしいバリバリのペンタトニックのフレーズを無理やり8分の13にはめ込んだ感じです。おそらく、フリップ卿とブラッフォード(フルーフォード?)あたりが「これで行く!」って決めたはいいけど、ジョン的には悩んだものと思います(勝手な想像です)。

27小節めからは、4拍子によるお約束の安らぎタイムが挟み込まれます。それまでの極度の緊状態がこのパートで一瞬緩みます。しかし、それもつかの間、31小節から再び8分の13に戻り、今度は、当初、低速の4分の13拍子で弾いていたのと同じフレーズを高速でねじ込んできます。正直言って、この部分の採譜は、何がなんだかわからないので上記動画の譜割は信用しないでくださいね。ここまで来ると理屈は抜きにして勢いで対応するのみです。実際、ベース弾くときはそうしてます。

●感涙にむせぶエンディング

10分20秒からは、エンディンパートに突入です。ここは、自然な4拍子ですが、13拍子の部分から引きずってきた緊張がそのまま継続しているため、その上のレイヤーで展開する圧巻の演奏と相まって、超弩級の迫力でクライマックスを演出します。ソプラノサックスの音が、内奥に宿る悲しみ因子を増殖させ、メータの針はレッドゾーンを振りきって天井に張り付きます。涙なくしては聴けません。涙涙涙…..

それにしてもAfter Cryingの演奏、ここはやはりメロトロンで空間を埋めてほしかった。演奏はすばらしいのですが、この部分は、オリジナル音源のようにメロトロン独特の音程がフラついたザラッとしたストリングス音が入ってこその真意が聴くものに伝わるというものです。

それにしても、キンクリの変拍子の研究は高度過ぎて疲れます。ああ、しんど…。では、Spotify、Google Play Music、Apple Musicのプレイリストでお聴きください。

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