Interview

Rockの呪縛が解けないオトナたち Vol.01 〜 情報総合研究所の神野新さんの巻

各界のロック好きを訪問し、お気に入りの曲について大いに語ってもらう、という記事企画「Rockの呪縛が解けないオトナたち」がスタートしました(すごいタイトルだ)。第1弾は、情報総合研究所のICT基盤研究グループ主席研究員の神野新さんにご登場いただきました。

神野さんが選んだ曲は、次の5曲です(末尾にApple MusicやSpotifyのプレイリストへのリンクあり)

“America” by YES
“Monk Berry Moon Delight” by Paul McCartney
“There She Goes Again” by R.E.M.
“Buddy Holly” by Weezer
“Miracle (of Joey Ramone)” by U2

では、それぞれの曲について選んだ理由や曲に対する思いを語っていただきましょう。

● “America” by YES〜S&Gの原体験を別の形で彩る名カバー曲

— 3曲目以降は、各年代ごとに選曲されてます。
神野:
好みだけで選ぶと70年代に集中しそうなのであえて各年代ごとに選びました。

— 1曲目の「America」は、サイモン&ガーファンクルの曲ですが、YESのカバーを選んだ理由はなんですか?
神野:
話せば長くなります(笑)。13歳で最初に買った洋楽LPがサイモン&ガーファンクルのベスト盤でした。その中でも「America」は、淡々とした風情があってお気に入りの曲でした。ただ、歌詞を読んで、ベトナム戦争泥沼化の焦燥感を重ねた歌だと、中学生ながら感じとりました。今でも、これを聞くと60年代のアメリカという国のイメージが浮かんできます。

そんな、歌詞の中に、「サギノー」や「ニュージャージー・ターンパイク」といった地名が出てきます。サギノーは、ネイティブアメリカンの言葉のようですが、それらの言葉の語感に惹かれたんですね。それと、ニュージャージー・ターンパイクが高速道路の巨大なジャンクションであることを知って米国の国力に驚愕したといいうか…。20年ほど前に出張でニュージャージー・ターンパイクを通った時には、いたく感動しました。

— でも、それがなんでYESのカバーにつながるのでしょうか?
神野:
YESが「アメリカ」をカバーしていることは、後から知りました。この曲は、カバーながらYESというバンドの特徴、それも黄金時代のYESのエッセンスが凝縮された曲だと思います。 途切れることのがない、ソリッドかつタイト、スピーディーな超絶演奏はスリリングで何度聴いても飽きません。常識の枠に収まらないオリジナルとの落差に満ちたアレンジも大きな魅力のひとつです。

このカバー曲は、サイモン&ガーファンクルのすばらしい原体験を別の形で彩ってくれます。本来なら10分にも及ぶロングバーションを聴いて頂きたいのですが、免疫ができあがってない状態で1曲目でいきなり引かれても困りますので(笑)今回は、4分10秒に編集されたシングルカット盤をご紹介しています。こちらでも十分にぶっ飛び度合いは伝わると思います。

そんなワイルドな演奏とは対照的なジョン・アンダーソンのスローでクリアなボーカルも大きな魅力です。これぞまさにプログレ、まさにYESです。最高傑作と称される「危機」もすばらしい曲ですが、「America」も「YESとはどんなグループか?」という問いの回答にふさわしい曲だと思います。

●”Monk Berry Moon Delight” by Pure McCartney〜振り絞る野太い声に男も惚れる

— 次はポールの曲ですが、「RAM」からの選曲というのが通っぽくて泣かせます。
神野:
大好きだったBeatlesの解散後、最初に買ったメンバーのソロアルバムはジョンの「Imagine」そして、ポールの「RAM」でした。「Beatlesはソロになってもやはり凄い」と感心して聴いていました。この曲の魅力は、Beatles時代の「ヘルター・スケルター」や「オー・ダーリン」に通じる、絶叫シャウト系のボーカルです。ただし、絶叫とっても、ヘビメタの絶叫系とは真逆の野太い声を振り絞る絶叫です。この男臭さは、男も惚れる素晴らしい魅力です。喉の強靭さにも舌を巻きます。それでいて、曲そのものは、メロディアスでドラマティックで、ポール・ワールドが炸裂しています。

— でも、最近のライブでは「RAM」からの曲を演奏していないようです
神野:
最近のコンサートでは、過去の総括を惜しみなく行っているポールですが、リンダのコーラスがないから演奏しないのだと想像しています。彼女の素人っぽいコーラスは、この曲にとって唯一無二の存在ですから。最初に聞いたときはコーラスを場違いに感じたのですが、今では欠かせないアクセントだと思っています。

●”There She Goes Again” by R.E.M.〜歌と演奏のコントラストが有機的に連携する秀逸な作品

— 80年代の代表選手としてR.E.M.を選びました。
神野:
自分にとって、R.E.M.は完全に後追いのバンドです。何かのきっかけで初期のベスト盤を聞いて、即座に気に入りました。既出のアルバムをすべて入手して聴き込みました。私の偏ったイメージかもしれませんが、テキサスに代表されるアメリカ南部は「わびさび」が少ない土地と思っていたので、ウェットなムードを持ったR.E.M.がジョージア州から出てきたバンドだと聞いて驚きました。

— それは、米国の南部出身らしからぬ音楽性ということですか?
神野:
カリフォルニアから出たThe Doorsに漂う陰影や諦観は、ベトナム戦争や公民権運動という時代背景のせいだと理解していましたが、R.E.M.はそんな時代背景が無いですよね。このバンドを通じて、アメリカという国の奥の深さを再認識しました。中でも、特に耳に残っているのが”There She Goes Again”です。

いわずと知れたThe Velvet Undergroundのカバー曲です。オリジナルでは、ルー・リードが嫌いなはずのボブ・ディラン口調で「ねちっこく」歌うのに対して、マイケル・スタイプは透明感がありながら影のあるビブラート気味の独特の声で歌います。そんな歌唱の間を埋めるマービン・ゲイのHitch hikeという曲からの引用と指摘される、ドタバタした演奏も独特の世界観を作り上げるのに一役買っています。サビメロもない単調なパターンの繰り返しの短い曲ですが、歌と演奏の部分が必ずしも融合しているとは言えない中で、そのコントラストが「有機的連携」というキーワードを連想させる見事な曲です。私は、The Velvet Undergroundのオリジナルも好きなので、要は「曲が好き」という事だと思いますが…

●”Buddy Holly” by Weezer〜「若いから」という強迫観念で聴いたバンド

— 神野さんの口からWeezerのようなパワーポップバンドの名前が出るとは思いませんでした。
神野:
1990年代は音楽人生的に試行錯誤の時代でした。1980年代の前半でリアルタイムなアーティストの音楽を聴くことに関心を失い、Eurythmicsや、R.E.M.などは別にして、60年代、70年代の曲ばかりを聴いていました。当時は、「まだ30代なのだからコンテンポラリーなバンドを聞かなければ」という一種の強迫観念があってロッキング・オンといった音楽雑誌を読んでいました。1990年代の半ばから、80年代のエレクトロニック・サウンドへのアンチテーゼとして、ニルバーナなどのグランジが出てきたと理解していますが、私はメロディアスなパワーポップに惹かれました。そんな米国の代表的なバンドがWeezerでした。同時期のイギリスでは、ブリット・ポップと呼ばれるBlurやOasisなどの似た系列のバンドも登場していますが、それらの初期の作品も好きです。

— 強迫観念から新しいバンドを開拓するという聴き方は私はしたことがありませんが、そのお気持ちはわかります。
神野:
Weezerそのものは、それほど熱心に聴き続けたバンドではありませんが、デビューアルバムのこの曲は記憶に残っています。曲名のBuddy Hollyは、飛行機事故で死んだロックンロール初期のスターです。ドン・マクリーンが”American Pie”の中で彼の死について「音楽が死んだ日」と歌っていますが、この曲の歌詞の内容からは、そのようなオマージュの側面は感じません。ただ、自らの風貌をBuddy Hollyに例えたりして、若いミュージシャンの間でBuddy Hollyが「レジェンド」になっていることが嬉しかったのです。

ちなみに、Weezerのリーダー、リバース・クオモは、日本人女性と結婚し、親日家で知られています。全曲を日本語で作詞し、自ら日本語で歌っているアルバム(スコット&リバース)を出しています。なかなか良い出来なのでぜひ聴いてください。中でも「Homely Girl」という曲は、日本語の単語の語尾や語頭を掛け声にする技法を使っています。私には、これがとても新鮮に感じられました。

●”Miracle (of Joey Ramone)”〜ここ数年で聞いたU2以外も含めた全てのアルバムの中でも屈指の出来

— この曲を収録したU2のアルバム「Songs of Innocence」は、2014年にiOS 8が公開された際、全iTunesユーザーに無料で配布したことが話題になりました。ダウンロードした覚えがないのに「ミュージック」アプリの画面に現れたので驚きました。
神野:
クラウドに置いてある状態とはいえ、曲が強制的にリスト表示されるのですから、U2に興味のない人は怒りますよね。結局、ボノが謝罪するはめになりました。

— たくさんのアルバムの中で、なぜこのお騒がせアルバムからの曲を選んだのですか?
神野:
これは名作です。このアルバムは、ここ数年で聞いたU2以外も含めた全てのアルバムの中でも、個人的に屈指のお気に入りです。そして、1曲めの”Miracle (of Joey Ramone)”はとてもかっこいい。それと、ラモーンズのジョーイー・ラモーンへの賛歌という点も気に入ってます。ラモーンズは大好きですから。U2のボノがラモーンズのファンだと知った時には驚きました。しかし、ラモーンズの持つその独特の哀愁が、アイルランド人を引き付けたのは分かるような気がします。

取材後記:
神野さんの幅広いロックジャンルをカバーした知識には脱帽しました。この取材では、2時間近く話したのですが、音楽そのものに加え、時代背景やアーティストのサイドストーリーなど周辺の話題にも精通しているので驚きました。とても勉強になる楽しい取材でした。

AvailableOnAppleMusicLOGO
Junichiro Yamasakiの「Rockの呪縛 Vol.01」を@AppleMusicで聴こう。
listen_on_spotify-green


コメントは受け付けていません。

Theme by Anders Norén